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【JSSEC】設立10周年記念 オンラインイベントが開催! その3(パネルディスカッション編)「スマートフォンでつながるメタバースの世界」~新たに考慮すべきセキュリティとプライバシー~

2022年8月22日
2022年8月29日

メタバース世界で考えるべきセキュリティとプライバシーと各社の取り組み

最後のパネルディスカッションでは、コロナ禍を経て新たな仮想世界として注目を集める「メタバース」のセキュリティとプライバシーの問題に関して熱い議論が交わされた。 パネリストには、携帯キャリア3社のトッププレイヤー、NTTドコモの岩村幹夫氏、KDDIの川本大功氏、ソフトバンクの加藤欽一氏が招聘された。ファシリテータは、JSSEC技術部(ニューリジェンセキュリティ)の仲上竜太氏【★写真1】が務めた。

【★写真1】ファシリテータ―を務めた JSSEC技術部 部会長 ニューリジェンセキュリティ CTO 仲上竜太氏

【★写真1】ファシリテータ―を務めた JSSEC技術部 部会長 ニューリジェンセキュリティ CTO 仲上竜太氏

2000年代初頭に流行した「Second Life」のような仮想空間が、最近再び「メタバース」というキーワードで注目を浴びるようになった。コロナ禍による行動制限もあるが、デジタル技術を利用したコミュニケーションが常態化し、VR技術の発展や低価格化に後押しされた形だ。最近では、Facebookが社名をMetaに変更した。これも次の時代を予見したものだろう。

メタバースというと、アバターが3Dバーチャル空間を往来し、リッチなショッピング体験など、ビジネスの場を提供するほか、ブロックチェーンやNFTでアイテムの所有や売買ができたり、仮想空間の土地を所有して投資運用したりと、さまざまな切り口でのイメージがある。

まだメタバースの定義は定まっていないが、モデレータの仲上氏によると「現実の自分のアイデンティティと、自分のデジタルツインが存在する空間」がメタバースの定義になるという【★写真2】。

【★写真2】メタバースは上図のような空間であり、さらに見た目・身体表現、仮想空間表現、コミュニティ・社会基盤の要素を部分的に備えたデジタル空間でもあるという。

【★写真2】メタバースは上図のような空間であり、さらに見た目・身体表現、仮想空間表現、コミュニティ・社会基盤の要素を部分的に備えたデジタル空間でもあるという。

まず仲上氏は、各登壇者にメタバースの取り組みについて訊ねた。

NTTドコモの岩村幹夫氏【★写真3】は、同社が3月にスタートとさせた「XR World」【★写真4】について紹介した。このサービスはブラウザーベースで動き、PC・スマートフォンに対応。コミュニケーションプラットフォームとして、VRの世界でアバターが歩き回り、友人とバーチャル空間を散策したり、音楽やライブ映像を楽しんだりすることができる。

【★写真3】 旧NTTドコモ スマートライフビジネス本部 ビジネスクリエーション部 XR推進室 室長 現NTTドコモ スマートライフカンパニー スマートライフ戦略部 XR推進室 室長 岩村幹夫氏

【★写真3】
旧NTTドコモ スマートライフビジネス本部 ビジネスクリエーション部 XR推進室 室長
現NTTドコモ スマートライフカンパニー スマートライフ戦略部 XR推進室 室長 岩村幹夫氏

【★写真4】NTTドコモの「XR World」(https://official.xrw.docomo.ne.jp/)。ライブイベントを中心にVR空間で友人と共体験ができる。

【★写真4】NTTドコモの「XR World」(https://official.xrw.docomo.ne.jp/)。ライブイベントを中心にVR空間で友人と共体験ができる。

ソフトバンクの加藤欽一氏【★写真5】は、この5月末に発表したばかりの「福岡PayPayドームのメタバース化」の取り組みについて触れた【★写真6】。同社は5Gの移行にあたり、大容量通信の利用法を検討していた。その1つとしてスポーツやフェスで、スタジアムに来られない人たちでも、メタバースを活用して新しい体験ができるように、2019年頃からプレサービスを実施を重ね、今年、本プロジェクトに踏み切ったそうだ。実際の投球体験ができたり、立ち入り禁止エリアへの入場やコミュニケーション機能で友達とラッパを吹いたり、ジェット風船で応援したりすることが可能だ。

【★写真5】 ソフトバンク コンシューマ事業統括サービス企画本部 コンテンツ推進統括部メタバース・NFT部 部長 加藤欽一氏

【★写真5】 ソフトバンク コンシューマ事業統括サービス企画本部 コンテンツ推進統括部メタバース・NFT部 部長 加藤欽一氏

福岡PayPayドームのメタバース。選手やチームの応援だけでなく、バッターボックスに立って実際の投球を体験することも可能だ。

福岡PayPayドームのメタバース。選手やチームの応援だけでなく、バッターボックスに立って実際の投球を体験することも可能だ。

KDDIの川本大功氏【★写真7】は、都市連動型メタバースである「バーチャル渋谷」の取り組みを紹介【★写真8】。5GやXRなどのテクノロジーで都市体験を拡張することを目的に、渋谷区と企業が協力して2019年から実証実験を開始した。その後、2020年に新プロジェクトを組織したが、新型コロナの流行により外出できない人に向けて、同じ場所で体験を共有できるバーチャル空間として「バーチャル渋谷」を自治体公認で構築。緊急事態宣言のもと、わずか2ヵ月弱で実現した。昨年のハロウィーンフェスは55万人が来場したという。

【★写真7】KDDI 事業創造本部 ビジネス開発部 メタバースビジネスリーダー / バーチャルシステムコンソーシアム / 慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任講師 川本大功氏

【★写真7】KDDI 事業創造本部 ビジネス開発部 メタバースビジネスリーダー / バーチャルシステムコンソーシアム / 慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任講師 川本大功氏

【★写真8】 都市連動型メタバースである「バーチャル渋谷」(https://vcity.au5g.jp/shibuya)。コロナ禍でのハロウィーンフェスでは、延べ55万人もの人々が参加したという。 ©KDDI・au 5G/渋谷5Gエンターテイメントプロジェクト

【★写真8】
都市連動型メタバースである「バーチャル渋谷」(https://vcity.au5g.jp/shibuya)。コロナ禍でのハロウィーンフェスでは、延べ55万人もの人々が参加したという。
©KDDI・au 5G/渋谷5Gエンターテイメントプロジェクト

【★写真8】 都市連動型メタバースである「バーチャル渋谷」(https://vcity.au5g.jp/shibuya)。コロナ禍でのハロウィーンフェスでは、延べ55万人もの人々が参加したという。 ©KDDI・au 5G/渋谷5Gエンターテイメントプロジェクト

【★写真8】
都市連動型メタバースである「バーチャル渋谷」(https://vcity.au5g.jp/shibuya)。コロナ禍でのハロウィーンフェスでは、延べ55万人もの人々が参加したという。
©KDDI・au 5G/渋谷5Gエンターテイメントプロジェクト

【★写真8】 都市連動型メタバースである「バーチャル渋谷」(https://vcity.au5g.jp/shibuya)。コロナ禍でのハロウィーンフェスでは、延べ55万人もの人々が参加したという。 ©KDDI・au 5G/渋谷5Gエンターテイメントプロジェクト

【★写真8】 都市連動型メタバースである「バーチャル渋谷」(https://vcity.au5g.jp/shibuya)。コロナ禍でのハロウィーンフェスでは、延べ55万人もの人々が参加したという。 ©KDDI・au 5G/渋谷5Gエンターテイメントプロジェクト

メタバースとスマートフォンの関係性と今後の展開とは?

各社のメタバースの取り組み紹介のあと、本題であるディスカッションがスタートした。はじめのテーマは「メタバースとスマートフォンのつながり」だ。メタバースへのアクセスに使われるデバイスには、PC/スマートフォン/VR専用デバイスという選択肢がある。最近ではMeta社のように手ごろな価格でVR専用デバイスが手に入るようになった【★写真9】。

【★写真9】 メタバースのアクセスに使われるデバイスにはPC/スマートフォン/VR専用デバイスがある。 VR専用デバイスは安価になってきたが、利用者が多いのは国民の9割が持つというスマートフォンだ。

【★写真9】 メタバースのアクセスに使われるデバイスにはPC/スマートフォン/VR専用デバイスがある。 VR専用デバイスは安価になってきたが、利用者が多いのは国民の9割が持つというスマートフォンだ。

仲上氏は「スマートフォンとメタバースは今後どうなっていくのでしょうか?」と、各パネリストに質問を投げかけた。

まずNTTドコモの岩村氏が「移動体通信のパラダイムシフトは、UIとデバイスの進化で起きた」とし、立体図をもとに解説した【★写真10】。

【★写真10】UIとデバイスの進化を示す立体図。「Attention」(注目度・集中度)、「Portability」(携帯性)、「Privacy」(プライバシー)の3軸で表現したもの。

【★写真10】UIとデバイスの進化を示す立体図。「Attention」(注目度・集中度)、「Portability」(携帯性)、「Privacy」(プライバシー)の3軸で表現したもの。

図のデバイスの進化は、右上の方向(タブレット、スマートフォン&スマートウオッチなど)に進化しており、左下のデバイス(PC、固定電話機など)が淘汰されている状況だ。

「没入感とプライバシーがあって、携帯性がないHMDやARグラスは、究極的には右側(携帯性)に向かって、コンタクトレンズ型や眼鏡型になっていきます。経済合理性を無視すれば、これらに他のデバイスも内包されてしまうでしょう」というのが岩村氏の考えだ。

同氏は「ただし、いきなり移行するわけではなく、コンテンツ、アプリ、ネットワークや基盤などがエコシステムとして揃う必要があり、それらを順番につくっていかなければなりません。しかし現状では、まだデバイス技術は時間がかかりそうなので、メタバースの入口として、現在普及しているスマートフォンが一時的に使用されていくでしょう」と予測する。

ファシリテータの仲上氏も「近年スマートフォンの利活用が広がり、Attentionが高くなっていると感じます。やはり先々はSFに出てくる眼鏡型やコンタクトレンズのようなデバイスが主流になり、装着を意識せず、透過的な3D世界になっていくでしょう。エコシステムという点では、より身体拡張性の高い取り組みに繋がっていくと理解しました」と付け加えた。

ソフトバンクの加藤氏も、この意見に賛同しつつ、没入感に関してはライトなケースとコアなケースがあるという考えを示した。

「ゲームでも没入するタイプもあれば、スマホで操作するようなシンプルなタイプもあります。同様にメタバースでも両方のコアとライトの使い方が存在すると考えたとき、数万円ぐらいの新たなデバイスが出てもなかなかハードルが高く、まずは手元にあるスマートフォンで体験して、その価値を確かめることができます。そういう意味では、スマーフォンが最初のハードルを乗り越えるために非常に重要な存在になるでしょう。我々のようなキャリアは、通信とデバイスを安価に届けられる立ち位置なので、メタバースの普及に向けた使命があると感じています」と加藤氏。

一方、KDDIの川本氏は「バーチャル渋谷を開発したときは、世の中に閉塞感があったので、早くローンチしようと考えていました。渋谷の都市体験という点では、ユーザーは小学生から70代以上の高齢者までおり、ITリテラシーも通信環境もバラバラです。やはり身近なデバイスで使えないと普及しないので、スマートフォンが一番良いと思いました。ただしメモリなどハードウェアスペックによる制限があるので、やりたいことはあっても実現できていないことも多くあります。これらの壁をどう乗り越えていくのかという点が課題です」と説明した。

この話を受けて、仲上氏は「都市型VRだと多くの人が対象になるので、デバイスをPCVRに限定してしまうとマニアックな人たちが集まる空間になりがちです。それがスマートフォンによって、幅広い世代の人々が自分事として集まってくれます。将来的にスマートフォンも技術も進化して、ハイスペックでコストも安いものが登場すれば、開発側のクリエイターもリッチなコンテンツをラクに作れるようになると思います」と期待を膨らませた。

メタバースによって生じる新たなプライバシーとセキュリティの課題をどうする

メタバースの世界では、HMDやセンサを使いながら自分の分身が活動するため、デジタル化しにくい身体情報が記録できることになる。つまりWebサイトを閲覧するよりも多くの情報が取得できるということだ。表情、身振り・話し方、訪問場所、会話した相手など、新しいプライバシー情報を取得できるなかで、セキュリティについても考えていく必要がある【★写真11】。

【★写真11】メタバースのセキュリティ問題は、従来のようなシステムへの不正とユーザーへの不正が考えられる。前者では、VR特有の視界や身体フィードバックへの攻撃が新たに加わる。また後者は経済活動を伴うなりすましの影響が大きくなる。

【★写真11】メタバースのセキュリティ問題は、従来のようなシステムへの不正とユーザーへの不正が考えられる。前者では、VR特有の視界や身体フィードバックへの攻撃が新たに加わる。また後者は経済活動を伴うなりすましの影響が大きくなる。

【★写真11】メタバースのセキュリティ問題は、従来のようなシステムへの不正とユーザーへの不正が考えられる。前者では、VR特有の視界や身体フィードバックへの攻撃が新たに加わる。また後者は経済活動を伴うなりすましの影響が大きくなる。

たとえば、VR空間に不快なものが出てきたり、身体フィードバックが可能なデバイスを悪用して感覚を奪われたりと、新たなシステムへの不正も考えられる。また直近の問題として、人格のなりすましや、盗聴・盗撮、ハラスメントといったユーザーへの不正も起きる可能性があるだろう。

仲上氏は「メタバースとして、Webシステムやアプリの脆弱性対策といった技術的なセキュリティ課題に加えて、コミュニティとしての治安維持も考えていかなければなりません」と強調し、各パネリストにプライバシーとセキュリティの課題について訊ねた。

岩村氏は「メタバースの世界でアバターが活動していくなか、本人性を担保しながらプライバシーを確保する仕掛けづくりが重要になります。またメタバースが相互接続されてマルチバースになると、越境時の本人性の担保が課題になるでしょう。さらにスマートグラスは自己位置認識のためにカメラが搭載される点、外向きだけでなく内向きのカメラで視線や瞳孔の動きも捉えられるので、バイタル情報も簡単に取れます。こういった情報をどこまでビジネスに使うかという問題もあります。ほかにもWeb3.0 の文脈で、ブロックチェーンのスマートコントラクトの権利保護など、全員が同じルールで解釈してくれるのかといった多くの課題を抱えています」と指摘した。

加藤氏は「これらの問題は、これから事例がどんどん増えていくため、しっかりと整理していくテーマだと思います。キャリアが決められることだけでなく、行政も含めて関係者のみなさんと決めることも多くあります。まず課題を洗い出しながら、どこを整備していくべきかを決めたいと感じています」と語った。

仲上氏は「セキュリティだけを考えても世の中が進展していかないので、利活用を支えていくという観点でセキュリティが成熟していくことが大切です。いまは、いろいろな使い方を通して課題を抽出し、その取り組みをどう進めていくべきか? ということで、これからJSSECとしても積極的に取り組んでいきたいと思います」とコメントした。

川本氏は「我々もバーチャルシティコンソーシアム(http://shibuya5g.org/research/)のガイドラインで、個人情報やプライバシーまわりについて規定しています。大前提としてプライバシー保護は大変重要です。さまざまな行動データを取得・蓄積しようと思えば可能ですが、情報を取りすぎるとユーザーにとってメタバースが気持ちの悪いものになってしまいます。サービスプラットフォーマ自身が、利活用する情報や取得すべき情報を制限し、情報管理や取得プロセスに透明性を持つことが重要です。相互運用性の課題も業界全体で走りながら認識を合わせていかねばなりません。たとえば、アイデンティティを保持しながら複数のメタバースを渡り歩くとき、個人情報や第三者提供の同意取得がキモになると思います。各団体で異なるルールになるとユーザーも管理側も大変なことになり、世界に遅れを取ってしまうかもしれません」と懸念を示した。

またセキュリティに関して川本氏は「仮想空間で行動データを取りながら、技術的に制限をかけられますが、表現の自由との兼ね合いにもなります。ユーザーの表現や活動の意欲を阻害しないように考えていくことが大切です。自律的な経済圏、エコシステムを生まないと今後メタバースも広がりませんが、なりすましは大きな問題になるでしょう。経済的な損失や個人の評判などにも関わるため、メタバース上で提供するサービス・体験の性質に合わせて、eKYCのような本人確認の仕組みをサービス側が考えていく必要があると思います」と提案した。

これらの話を聞き、仲上氏は「やはりルール乱立は、さまざまなところで足かせになってしまいます。相互運用性を考えたとき、同意画面が大量に出てしまうような世界はもったいないです。必要最低限のルールと、やるべきことを統一的に持てるような仕組みをつくれると良いと思いますが、まさにメタバース黎明期での課題と言えるでしょう」と話をまとめた。

2022年8月22日
2022年8月29日
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