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【JSSEC】設立10周年記念 オンラインイベントが開催!その2(基調講演 編)~「スマートフォンが描いた10年の軌跡、広がるモバイルテクノロジーの未来とセキュリティ」

2022年8月15日
2022年8月8日

17年前から提唱していた、ゆりかごから墓場まで"ケータイ"構想

JSSECアドバイザーであり、SDGsデジタル社会推進機構事務局長を務める木暮祐一氏【★写真1】が、「あらゆる情報ハブとなったスマートフォンの10年とその行方」をテーマに基調講演に登壇し、スマートフォンの進化を俯瞰しながら、今後の姿について予想した。

 【★写真1】(一社)日本スマートフォンセキュリティ協会(JSSEC)アドバイザー、(一社)SDGsデジタル社会推進機構 事務局長 木暮祐一氏

【★写真1】(一社)日本スマートフォンセキュリティ協会(JSSEC)アドバイザー、(一社)SDGsデジタル社会推進機構 事務局長 木暮祐一氏

2021年に木暮氏が立ち上げたSDGsデジタル社会推進機構は、SDGsとデジタルという観点から、自治体や企業と協力して地方創生を推進する団体だ。本講演は団体とは関係ない個人の見解であり、木暮氏のライフワークである携帯電話の話を中心に披露した。木暮氏といえば、ケータイコレクターとして著名な人物だ。その立ち位置からJSSECと関わりを持ってきた。

木暮氏は、携帯電話やスマートフォンをどのように活用していくか? という観点から研究者として長年活動しており、いち早く健康・医療分野でのモバイル端末の重要性とセキュリティについて説いてきた。

出版業界からキャリアをスタートした同氏は、その後モバイルの研究を進めるため徳島大学大学院に入り直し、「携帯電話を用いた遠隔患者モニタリングシステム」で博士号を取得。入院患者のバイタルデータをモバイルフォンで医師に伝達する、まさにIoTの走りとなるシステムを開発した。

まだ2005年当時は、携帯電話が研究対象として学会で認められていない不遇の時代だった。同氏もかなり忸怩たる思いがあり、携帯電話が「研究対象」になることを常々訴え続けてきた。同氏の夢は「ゆりかごから墓場まで"ケータイ"構想」というもの。その夢が、いまや現実のものとなりつつある【★写真2】。

 【★写真2】木暮氏が大学院に在学していた2005~6年頃から描いていた携帯電話活用のイメージ。各機関のデータベース・ネットワークと携帯電話が連携し、個々人の「情報利活用端末」になるというもの。いわば情報ネットワークのハブやゲートウェイとして機能するという意味だ。

【★写真2】木暮氏が大学院に在学していた2005~6年頃から描いていた携帯電話活用のイメージ。各機関のデータベース・ネットワークと携帯電話が連携し、個々人の「情報利活用端末」になるというもの。いわば情報ネットワークのハブやゲートウェイとして機能するという意味だ。

 

実際にケータイを単なる通話の手段として利用するのではなく、たとえば携帯電話と母子手帳、健康保険証、社会保障記録、医療関連情報、介護保険情報というように、人間のライフステージで必要なデータが、すべて携帯電話と紐づいて活用できる社会を予見してきた。同氏は、当時の先進的な事例として、石の声という山梨の企業が発売した「QRコード付き墓石」を紹介。携帯電話にQRコードをかざすと、故人を偲ぶ情報を見られるというユニークな発想に基づくものだ。

また、心臓ペースメーカーや血圧計などのデータを携帯電話に集約し、受診時に活用し、クラウドに蓄積して分析するイメージを描いた。携帯電話からスマートフォンの時代に移行し、一気に現実味を帯びてきたのが2008年以降だ。そうなると個人情報の観点からもセキュリティの重要性がますます増す【★写真3】。

【★写真3】ペースメーカーや血圧など、さまざまなバイタルデータを携帯電話に送り、さらにそこからクラウドにデータを蓄積。蓄積されたデータを分析し、受信時に活用するなど、2008年以降は、いろいろな活用ができる可能性がみえてきた時代になった。

【★写真3】ペースメーカーや血圧など、さまざまなバイタルデータを携帯電話に送り、さらにそこからクラウドにデータを蓄積。蓄積されたデータを分析し、受信時に活用するなど、2008年以降は、いろいろな活用ができる可能性がみえてきた時代になった。

昨今は、さまざまなIoT機器やアプリケーションも登場し、健康・医療に関わるデータ収集もラクに行えるようになってきた。しかし情報の入り口、ハブとしてのスマートフォンの役割は変わらない。

いよいよ日本でもスマートフォンを起点にした医療情報の利活用時代へ

木暮氏は自身が愛用しているアプリやIoT機器も紹介した。たとえば、iPhoneの目覚ましアプリ「Sleep Cycle」【★写真4】は、個人の睡眠をモニタリングし、目覚まし時間を設定すると、眠りの浅い時間にアラームを鳴動する。いびきを自動録音したり、眠りの深さの傾向を分析したり、他所との比較、天気・気圧の変化、月の満ち欠けと睡眠の相関なども分かる。

【★写真4】スマート目覚まし時計アプリ「Sleep Cycle」。目覚ましアプリだが、データがクラウドに蓄積され、あとから自身の眠りの状態を分析できる。睡眠をモニタリングすることで、どんなときによく眠れるか、あるいは眠れないかも分かる。

【★写真4】スマート目覚まし時計アプリ「Sleep Cycle」。目覚ましアプリだが、データがクラウドに蓄積され、あとから自身の眠りの状態を分析できる。睡眠をモニタリングすることで、どんなときによく眠れるか、あるいは眠れないかも分かる。

また総合ヘルストラッキングアプリ「Withings Health Mate」【★写真5】は、スマート体重計からデータを収集し、体脂肪率、筋密度/骨密度、体内水分率、BMIなどを分析できるため、ダイエットも含め、個人の行動変容を促してくれる。

 【★写真5】 スマート体重計からデータを収集し、自身の体重に関わるデータなどを分析できるので、健康やダイエットの際に役立つアプリ。スマートウォッチやスマートスケールなどの連携も。

【★写真5】 スマート体重計からデータを収集し、自身の体重に関わるデータなどを分析できるので、健康やダイエットの際に役立つアプリ。スマートウォッチやスマートスケールなどの連携も。

最近では腕時計型デバイスだけでなく、リング型の「Oura Ring」【★写真6】も登場。心拍の揺らぎ、体温などのバイタルデータを収集し、ストレスやリラックスの度合い、眠りの深さなどを計測してくれる。実際に木暮氏が新型コロナウイルスのワクチンを打った翌日のバイタルデータは、他の日と様子が異なることが分かったという。

【★写真6】 より進化したIoT機器として活用できるリング。ライフログを記録し、ストレスやリラックスの状態、睡眠状態を計測してデータを分析。木暮氏によると、リング型のほうがより正確に分析できるとのこと。

【★写真6】 より進化したIoT機器として活用できるリング。ライフログを記録し、ストレスやリラックスの状態、睡眠状態を計測してデータを分析。木暮氏によると、リング型のほうがより正確に分析できるとのこと。

実は2010年当時、すでに電子政府を実現していたお隣の韓国では、住民登録番号(国民ID)に個人の医療・社会保障関連情報を紐づけていた。まだ日本では、住基ネットが普及しておらず、マイナンバーカードもなかったため、木暮氏はケータイ電話の活用を強く提唱したのだ。

そのような状況で、政府が2010年に「どこでもMY病院構想」【★写真7】を発表。医療、健診、健康などの関連情報を個人が管理して、必要に応じてサーバに蓄積することで、医療機関などで利活用するという構想だ。政府は「PHR」(Personal Health Record)、すなわち生涯型電子カルテを一ヵ所に集約する仕組みを模索していたのだが、なかなか普及しなかった。

【★写真7】2010年に政府が発表した「どこでもMY病院構想」のイメージ。医療・健康情報などを個人で管理し、必要なときにサーバ(どこでもMY病院)にアップして、それらのデータを医療機関で活用するというもの。

【★写真7】2010年に政府が発表した「どこでもMY病院構想」のイメージ。医療・健康情報などを個人で管理し、必要なときにサーバ(どこでもMY病院)にアップして、それらのデータを医療機関で活用するというもの。

2012年前後になると、木暮氏や政府が描いていた構想も、技術進歩とともにアップデートされ、健診履歴や行動履歴、SNSなどのパーソナルデータとスマートフォンの連携イメージも広がってきた。しかし、まだまだ国内では認知されなかった。日本が手をこまねいているうちに、Appleがヘルスケアデータのポータル化を始めた。2014年にアップデートしたiOS14で個人の健康項目150余りが設定できるようになり、ユーザーの同意のもとで、各種バイタルデータをアプリの「ヘルスケア」で集約する仕組みを構築した【★写真8】

【★写真8】 iOS14から搭載されたアプリ「ヘルスケア」。個人の許可のもとで、各種バイタルデータを集約できる仕組み。画期的なアプリだが、思った以上には利用されていないようだ。

【★写真8】 iOS14から搭載されたアプリ「ヘルスケア」。個人の許可のもとで、各種バイタルデータを集約できる仕組み。画期的なアプリだが、思った以上には利用されていないようだ。

その後ようやく日本でマイナンバーカードの普及が始まり、2022年度を目標にスマートフォンへマイナンバーカード機能(電子証明書)を搭載する利活用イメージが発表され、次のステージに進む段階まで漕ぎつけた【★写真9】。

【★写真9】マイナンバーカードの機能(公的個人認証サービスの電子証明書)をスマートフォンに搭載することで、さらにデータ利活用が広がる。コンビニ端末から発行できる各種書類も増え、オンライン行政手続きも簡単になる。

【★写真9】マイナンバーカードの機能(公的個人認証サービスの電子証明書)をスマートフォンに搭載することで、さらにデータ利活用が広がる。コンビニ端末から発行できる各種書類も増え、オンライン行政手続きも簡単になる。

さらに健康ビッグデータをスマートフォンアプリで記録収集する共通ルールや、政府の骨太方針2022でも「全国医療情報プラットフォームの創設」「電子カルテ情報の標準化」「診療報酬改定DX」などの取り組みも明記され、今後の展開が期待されるところだ。このように携帯電話からスマートフォンへの進化過程において、いよいよ日本でも医療情報分野など多くの利活用が、木暮氏が描いていたように現実のものとなりつつあるわけだ。

中古スマートフォンの修理・再生業者と、驚くような世界のエコシステム

次に木暮氏は、ジャーナリストの視点から中古スマートフォンの流通プロセスについても解説した。

消費者が購入したスマートフォンは、自宅に保管しているユーザーも多いが、最近では中古品として売却するケースも増えている。たとえば、日本、韓国、北米などのユーズドiPhoneは香港に流れ、そこで買い取り業者向けにオークションが開催され、ふたたび中国やASEAN諸国、中東、アフリカ各地に流れるそうだ【★写真10】。

【★写真10】中古iPhoneの流通プロセス。先進国で使用されたiPhoneが香港に流れ、そこでオークションが開催され、業者が買い取ったiPhoneがアセアン諸国や、アフリカなどに流れるという構図。

【★写真10】中古iPhoneの流通プロセス。先進国で使用されたiPhoneが香港に流れ、そこでオークションが開催され、業者が買い取ったiPhoneがアセアン諸国や、アフリカなどに流れるという構図。

実際に木暮氏は2015年に香港に飛び、業者向けオークションに潜入することに成功。市街地から外れた倉庫街のビル内に中古スマートフォンが山積みにされていたという【★写真11】。

【★写真11】 香港の業者向け中古スマートフォンオークションに潜入。倉庫で山積みになった箱の中には、中古スマートフォンがぎっしり詰め込まれていた。資産価値にすると数億円は下らない量だ。

【★写真11】 香港の業者向け中古スマートフォンオークションに潜入。倉庫で山積みになった箱の中には、中古スマートフォンがぎっしり詰め込まれていた。資産価値にすると数億円は下らない量だ。

オークションでは、箱単位で同じグレードのiPhoneが詰められ、ひと箱いくらという形で最高値をつけた業者に売られる形だ。当時iPhone6が主流だった時代で、卸値は5万円ほど。それが1箱に100個ぐらい入っているので、非常に大きなお金が動いていることが分かる。

その後、木暮氏はiPhoneを買い付けたバイヤーと共に中国・深せんに向かい、華強北の携帯電話市場ビルに入った。そのビルの上階には、業者向け中古スマートフォン市場があり、SIMロック解除や、傷ついた外装を新品に交換する業者も入っている【★写真12】。

【★写真12】 深せん華強北の携帯電話市場ビル。携帯電話を扱う店舗が、まるごとビルに入っている。かつての秋葉原ラジオデパートのような感じだ。ビルの上階に行くと、業者向けの中古端末専用店がずらりと並んでいた。

【★写真12】 深せん華強北の携帯電話市場ビル。携帯電話を扱う店舗が、まるごとビルに入っている。かつての秋葉原ラジオデパートのような感じだ。ビルの上階に行くと、業者向けの中古端末専用店がずらりと並んでいた。

ここで中古iPhoneの外装を新しくしたのち、箱屋で新品の箱とアクセサリを購入してパッケージングすると、なんと未開封の新品まがいのiPhoneになってしまうわけだ【★写真13】。さらに路地にいくと、使えないスマートフォンを分解し、純正部品を取り出している人もいる。とにかく中国では、捨てるものが一切なく、徹底的に製品をリサイクルでまわしている。

【★写真13】 IPhone専門の「箱屋」がビルの中にあり、中古品iPhoneを新品のようにして、箱づめしてくれる。ここで付属品のアクセサリも買える。たぶん新品と言われても気づかないだろう。

【★写真13】 IPhone専門の「箱屋」がビルの中にあり、中古品iPhoneを新品のようにして、箱づめしてくれる。ここで付属品のアクセサリも買える。たぶん新品と言われても気づかないだろう。

また木暮氏は日本に戻り、通信キャリアで下取りされた端末を海外に出荷する国内事業者も訪問した。厳重に管理された某ビルのフロアに集まった中古スマートフォンは、充電後に機種別・カラー別に分類され、情報をきれいに消去したのち、マイクやカメラなどの動作確認とグレード分けを行い、前述のように香港などに出荷されるのだという【★写真14】。

 【★写真14】下取りされた端末を海外に出荷する国内事業者にも訪問。さまざまなスマートフォンが機種ごと、カラバリごとに分類されている。しかるべき処理をしたのち、これらの中古品が海外に流れることになる。

【★写真14】下取りされた端末を海外に出荷する国内事業者にも訪問。さまざまなスマートフォンが機種ごと、カラバリごとに分類されている。しかるべき処理をしたのち、これらの中古品が海外に流れることになる。

さらに同氏は、欧州の中古スマートフォン市場を調査するためにドイツにも向かった。ハノーファで開催される展示会「CeBIT」に、業者登録した人しか入れない異色のパビリオンがあると聞きつけたからだ。ここに中古品を扱う業者が出展しており、修理パーツ専門業者などに交って、「Refurbished iPhone」(再生品)を扱う業者もあった。この業者は、国のレギュレーションに合わせて、無印製品刻印して、再生品を売っている業者だ【★写真15】。

【★写真15】ドイツで開催されたCeBITで、再生品の Refurbished iPhoneを専門に販売する業者が出展していた。壊れている中古製品であっても、修理して使えるようにしてから再び売り出す業者が存在している。

【★写真15】ドイツで開催されたCeBITで、再生品の Refurbished iPhoneを専門に販売する業者が出展していた。壊れている中古製品であっても、修理して使えるようにしてから再び売り出す業者が存在している。

実は、米国、フィリピン、東欧などにも同様の再生品業者がおり、中古品を修理して流すルートがあるという。そこで再び木暮氏は、フィリピンのRefurbished factoryに取材へ。約500人の従業員がiPhoneをネジ1本まで分解し、修理したのち、隅々まで清掃して、新品同様に再生される様子を目の当たりにしたという【写真16】。

【★写真16】フィリピンのRefurbished factory で修理されて新品同様に生まれ変わった iPhone。こういった工場は米国や東欧などにもあるそうだ。これらが新興国などで安く売られているという。

【★写真16】フィリピンのRefurbished factory で修理されて新品同様に生まれ変わった iPhone。こういった工場は米国や東欧などにもあるそうだ。これらが新興国などで安く売られているという。

このように米国、EU諸国、日本、韓国などのモバイル先進国で消費されたスマートフォンが中古品となって世界で再利用され、その修理・再生・流通プロセスでも新たな雇用が生まれているわけだ。世界では、まだモバイルが普及していない国もあるが、中古スマートフォンが安く出回るようになってきた。

いまや通信インフラが脆弱な国々にも、モバイル端末が広がり、インターネットやリアルタイムコミュニケーションも行われている。アフリカのマサイ族も首にスマートフォンをかけて使っている時代だ。このようにスマートフォンを通じて役立つ情報が得られるようになると、経済活動も活発になり、さらにSNSの世論形成で政権交代なども起きることになる。

最後に木暮氏は「いろいろな議論もあるだろうが、日本の中古スマートフォンが世界中に流れ、そのエコシステムの中で世界に影響を与えているならば、それなりの意味があることだと思う」とまとめた。

なお、中古スマートフォン市場の流通に関する詳細については、木暮氏のコラム(https://www.aucnet.co.jp/aucnet-reseach/report/#column)でも連載されているので、ご興味のある向きは参照してみると良いだろう。

2022年8月15日
2022年8月8日
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