第15回 スマートフォン利用シーンに潜む脅威 Top10 2026「ランク外」の死角に潜む罠
~ スマートグラスと生成AIが変貌させる「令和の盗撮・脅迫」の脅威と対策 ~
JSSEC副会長・理事
KDDI株式会社 本間 輝彰
スマートフォンが仕事やプライベートに欠かせないインフラとなった今、それを狙うサイバー犯罪や不正利用の手口も、生成AIを悪用するなどして急速に進化しています。
私たちJSSEC利用部会では、スマホユーザーの目線で身近な危険を捉え、対策に役立てていただくため、「スマートフォン利用シーンに潜む脅威 Top10 2026(10大脅威2026)」を選定し、2026年5月18日に公開いたしました。

図 1 スマートフォン利用シーンに潜む脅威 Top10 2026
前回(2023年)の発表から3年が経過し、生成AIによるフェイク動画・音声の悪用が1位になるなど、スマホを取り巻く脅威の勢力図は大きく変化しています。

図 2 スマホ利用10大脅威 2023とスマホ利用10大脅威 2026の比較
そのような激しい変化の中で、前回・今回ともに「脅威の有力候補」として挙げられながらも、最終的に10大脅威のランク外となった項目があります。それが「盗撮・プライバシー侵害(スマホカメラの悪用)」です。
この脅威は、重要度が低いからランク外になったわけではありません。むしろ、日常に溶け込みすぎていて、被害に遭っていることすら気付きにくく、その真の恐ろしさが十分に理解されていない可能性があります。そこで本コラムでは、この「見えにくい脅威」である盗撮・プライバシー侵害の実態を分かりやすく整理し、今必要な防衛策を解説していきます。
脅威編 ― 一般利用者を追い詰める「現代型プライバシー侵害」の3つの罠
ここでは、一般利用者が日常で直面する「見えない盗撮」から「AI加工」「脅迫」に至るまでの被害プロセスの高度化を、具体的な利用シーンに沿って解説します。
【撮影シーン】公共の場に溶け込む「認知できない盗撮」
多くの人が、公共の場で日常的にスマートフォンを操作しています。しかし、私たちが手元の画面に集中している隙に、周囲からカメラを向けられていたとしても、その盗撮行為に自ら気づくことは極めて困難です。
公衆浴場や脱衣所などでは「スマホ持ち込み・使用禁止」の貼り紙等による注意喚起が一般化しているため、スマホを手に持っているだけで周囲の目が光ります。しかし、それ以外の一般的な場所(公共交通機関やカフェなど)では、誰かが不自然にスマホを構えていても、周囲が違和感を抱くことは少なくなっています。
さらに大きな脅威は、スマートグラス(メガネ型カメラ)やペン型カメラといった、視線の先を自然に記録する超小型IoTデバイスの普及です。これらは「撮影している仕草」すら伴わないため、周囲が気づくことはほぼ不可能です。その結果、スマホの持ち込みが禁止されている脱衣所や更衣室であっても、こうしたデバイスによって容易にセキュリティをすり抜け、盗撮が行われるリスクが現実のものとなっています。
【拡散・加工シーン】SNS無断公開と「生成AIによる悪意の加工」
こうして盗撮された画像や、何気ない日常の姿は、本人の同意なくSNSや動画サイトに無断で公開されるリスクに晒されます。
さらに深刻なのが、「スマホ利用10大脅威2026」の1位でもある「生成span>AI」の悪用です。近年では、普通の服を着て写っている写真であっても、ディープフェイク技術(衣服を透過したかのように偽造する生成span>AIツールなど)により、瞬時に裸体や性的な画像・動画へと加工されてしまう手法が横行しています。これにより、本物と区別がつかないほどの高クオリティな偽造写真が、本人の知らないところで捏造されるリスクが高まっています。
【出口シーン】デジタルデータを人質にした「脅迫・恐喝」への発展
この脅威は、単に「勝手に画像を公開される」だけでは終わりません。捏造された画像をもとに「SNS
対策編 ― 一般利用者が今日からできる「自己防衛」の3つのアプローチ
このように脅威が巧妙化・悪質化する中、「防ぎようがない」と諦めるのではなく、一般利用者の立場でできる物理的・デジタル的・法的な防衛策を整理し、実践していくことが重要です。
【物理的・行動的アプローチ】違和感を察知する・隙を作らない
公共の場では「ながらスマホ」を控え、周囲の状況に最低限の注意を払いましょう。電車内などで不自然にスマートグラスを着用している人や、こちらを執視している不審な挙動にいち早く気づくことで、その場を離れるなどの回避行動を取ることができます。
また、脱衣所、更衣室、トイレなどでは、壁や備品に「カメラレンズのような不自然な小さな穴」がないか、あるいは「モバイルバッテリー、ペン、USBハブ」といった不審な小物が不自然な向きで放置されていないか、日常的に意識を向ける習慣をつけることも効果的な自己防衛につながります。
【デジタル・プライバシーアプローチ】自ら「素材」を提供しない
自分や家族・友人の顔写真を、インターネット上で無防備に全体公開のSNSに投稿しないことが重要です。何気ない投稿であっても、悪意ある第三者にとっては「捏造画像の作成(AI学習用)」や「脅迫」の格好の材料となり得ます。
さらに、生成AIや画像解析技術の発達により、背景に写り込んだわずかな景色や反射、マンホールなどの情報からでも、自宅や行動範囲が特定される時代です。投稿された写真の「点と点」をつなぎ合わせることで、生活習慣や行動履歴を完全に把握される恐れがあることを強く認識しておきましょう。生成AIや画像解析技術の発達により、背景に写り込んだわずかな景色や反射、マンホールなどの情報からでも、自宅や行動範囲が特定される可能性があります。
【法的・社会的アプローチ】被害に遭った・気付いたときの即時対応
2023年に施行された「性的姿態撮影等処罰法(撮影罪)」により、同意のない性的な部位や下着の撮影、およびその画像の提供・保管は全国一律で厳しい処罰の対象となっています。法的な後ろ盾があることを知っておくことは重要です。
万が一、撮影された画像やAI加工画像などを突きつけられて脅迫された場合は、絶対に相手にお金を支払ったり、要求に応じたりしてはいけません。一度でも応じてしまうと、要求はどこまでもエスカレートします。一度ネット上に流出したデータは「消せないデジタルタトゥー」となり得るため、相手が自主的に削除することを期待するのは極めて危険です。
脅迫を受けた場合は、やり取りの画面や相手のアカウント情報などをスクリーンショット等で確実に「証拠保存」した上で、すぐに警察(警察相談専用電話「#9110」)や弁護士、信頼できる専門機関へ相談することを強く推奨します。
まとめ
技術の進歩(IoTデバイスや生成AI)は生活を豊かにする一方で、悪用する側の手口も「手軽かつ巧妙」にさせています。したがって、これら身近に潜む脅威を正しく認識し、「事前の意識」を持って行動することが何よりも重要です。
「スマホ利用10大脅威2026」では、金銭的な直接被害(フィッシング等)が上位を占めていますが、個人の尊厳を深く傷つける「プライバシー侵害・盗撮」は、私たちのすぐ隣に潜む、極めて優先度の高い現代の脅威です。適切な知識を持ち、日頃からデジタルと物理の双方で「自己防衛のアンテナ」を高く保つことが、結果として最大の防御になると考えます。
なお、ここでは日常生活に視点を当てて脅威をまとめましたが、このリスクはビジネスの場においても全く同様に、あるいはそれ以上に深刻な形で存在します。
悪意あるカメラやマイクが狙うのは、個人のプライバシーだけではありません。オフィスの会議室や出張先での業務など、一瞬のスキから企業の重要機密が盗撮・盗聴されるリスクを自覚し、公私の境界を問わず、現代のデジタル社会に即した「新しい防犯意識」を日常に定着させていきましょう。
