モバイルデバイスのセキュリティ対策で注目される「MTD(Mobile Threat Defense)」とは
はじめに
前回のコラムでは、ビジネスにおけるモバイルセキュリティの第一歩として「MDM(Mobile Device Management)」の役割を整理しました。MDMは、紛失・盗難、不正アプリ、セキュリティ設定の未制御などの課題を解決するための「モバイルを安全かつ効率的に活用するための基盤」です。
しかし、モバイルを狙ったサイバー攻撃は巧妙化を続けており、この強固な基盤を整えていても、それだけで全てを防ぎ切ることは難しくなっています。そこで今、MDMを補完し、リアルタイムに脅威を検知する「MTD(Mobile Threat Defense)」が注目されています。
今回は、モバイルが晒されている「4つのリスク」を軸に、なぜ今、MDMに加えて、MTDが求められているのかを詳しく解説します。
1.モバイル環境における「4つの主要リスク」
MDMによって組織のポリシーが適用されている状態であっても、モバイルを狙う脅威を完全に排除することは困難です。現在のモバイルセキュリティにおいて留意すべきリスクは、主に以下の4つの領域に分類できます。
モバイルのリスク
① 脆弱性
OSに存在するプログラム上の不備を悪用する攻撃です。MDMによってOSのバージョン管理を行うことも可能ですが、もし何らかの理由で脆弱性が解消されないまま放置されている端末が組織内に存在した場合、大きなリスクになります。
② ネットワーク
通信経路やアクセスポイントを不正に介して行われる攻撃です。代表的な手法として、通信の間に割って入り情報を盗み取る「中間者攻撃(Man-in-the-Middle)」が挙げられます。
③ マルウェア
正規のアプリケーションを装い、インストール後に不正な動作を行うプログラムです。従来、モバイルアプリは公式ストアの審査によって一定の安全性が担保されてきましたが、「スマホ新法(スマホソフトウェア競争促進法)」の施行に伴い、サードパーティーのアプリストアの利用やサイドローディング(外部サイトからの直接インストール)の機会が増加することが予想されます。これにより、従来の管理体制の外にあるアプリの利用が拡大し、マルウェア感染による侵害リスクの増大が懸念されます。
④ フィッシング
実在する企業やサービスを装ったメールやSMSを用い、利用者を偽サイトへ誘導する攻撃です。正規のログイン画面を精巧に模倣したサイトへ誘導することで、利用者が知らずに自ら認証情報を入力してしまうよう仕向けます。近年では生成AIの活用により、自然な日本語の極めて巧妙なメッセージが増加しており、文面の違和感から偽物と判断することが極めて困難になっています。
2.MTD(Mobile Threat Defense)とは
これら巧妙化する4つのリスクに対応するために不可欠なのが、モバイル専用の脅威防御ソリューションである「MTD」です。
MTDは、PCの世界で普及している「EDR(Endpoint Detection and Response)」のモバイル版とも言える存在です。デバイスやアプリの挙動、通信の安全性などをリアルタイムで解析し、脅威をいち早く検知する役割を担います。
具体的には、先ほど挙げた4つのリスクに対して以下のようなアプローチで端末を保護します。
① 脆弱性への対応: 利用中のOSが危険な状態でないか確認。OSの不備を突こうとする不審な挙動を検知する等、システム権限の奪取や不正な機能呼び出しといった「デバイス上の異常」をいち早く察知します。
② ネットワークへの対応: 接続環境の安全性や証明書の正当性を確認。通信内容を盗み取ろうとする不審なアクセスポイントや、安全性の低い接続先のリスクを可視化します。
③ マルウェアへの対応: アプリの振る舞いを動的に解析。正規アプリを装って情報を抜き取ろうとする不正な挙動を検知し、機密情報の窃取といった被害の拡大を抑えます。
④ フィッシングへの対応: 巧妙に作られた偽サイトへのアクセスを検知。目視での真偽判定が困難なサイトへの接続を識別することで、利用者が誤って認証情報を入力してしまうリスクを低減させます。
3.MDMとMTDの役割と連携
MDMとMTDは、一方が他方を置き換えるものではなく、それぞれが得意とする領域で「相互補完」の関係にあります。
MDMが「デバイスの利用状況の把握や遠隔操作、アプリ配布といった組織的な管理・制御の基盤」を担うのに対し、MTDは「デバイスが今まさに直面しているリスクをリアルタイムに監視し、脅威を検知する役割」を果たします。
MDMとMTDの機能比較
また、この両者の管理システムを連携させることで、管理者の手を介さずに脅威への自動対処が可能になります。
例えば、外出先でMTDが「通信内容を盗み取ろうとする不正なWi-Fi」への接続を検知した際、そのイベント情報を即座にMDMへ通知します。通知を受けたMDMは、当該端末に対して「Wi-Fiの切断」といった対処を自動で実行します。これにより、利用者が気づかないうちに危険なネットワークに接続してしまった場合でも、情報が抜き取られる前に通信を遮断し、被害を未然に食い止めることが期待できます。
4. まとめ
ビジネスでのモバイル活用が当たり前になった今、モバイルセキュリティに求められるのは、デバイスの「管理」を土台とした「高度な脅威への備え」です。
MDMによって「組織としてデバイスを安全に運用するための基盤」を整え、そこにMTDを加えることで、デバイスの周囲に潜む脅威を検知し、適切な対処へと繋げることが可能になります。
従業員が場所やネットワーク環境を問わず、本来の業務に安心して集中できるモバイル環境の実現に向けて、MDMとMTDを組み合わせた多層的な防御は、リスクを最小限に抑えるための極めて有効なアプローチといえるでしょう。
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